私立幼稚園とPTA連合会の活動そして幼児教育無償化の概況
講師:東京都私立幼稚園連合会振興対策担当副会長 内野 光裕 先生
<講演内容>
The French National Survey (1992)
小学校の成績は、子どもの育つ環境を考慮しても、就学前教育を受けた時間の長さと関係していることがわかった。幼稚園に通う年数が長いほど、小学校1年生での落第率が低くなり、その影響は最も恵まれていない家庭の子どもほど大きい。
The United States `Success For All` study (2002)
「すべての子どものための成功」プログラムは、リスクの高い子どもに対して、学校の早い時期での成功を目的に、アメリカで広く実践されたもの。このプログラムに参加した子どもは、小学校卒業が早く、成績が良く、落第が少なく、特別教育のニーズが少なかった。
【幼児教育への投資の効果】
幼児期の教育は生涯にわたる学習の基盤を形成するものである。
質の高い幼児教育を受けることにより、その後の学力の向上や、将来の所得向上、犯罪率の低下等につながるという調査結果が示されている。(ペリー就学前計画の結果による)
【諸外国における幼児教育無償化の取組例】
イギリス:2004年までにすべての3~4歳児に対する幼児教育の無償化を実現。
フランス:3~5歳児を対象とした幼稚園は99%が公立であり、無償。
韓国:3~5歳児に対する幼児教育の無償化の方針を法定。(2012年)
【教育基本法】
(幼児期の教育)
第11条
幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることにかんがみ、国及び地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって、その振興に努めなければならない。
【学校教育法】
(学校の範囲)
第1条
この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。
(幼稚園の目的)
第22条
幼稚園は、義務教育及びその後の教育の基礎と培うものとして、幼児を保育し、幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする。
【新幼稚園教育要領 第1章「総則」の第2】
幼稚園教育において育みたい資質・能力及び「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」
(抜粋)
- 幼稚園においては、生きる力の基礎を育むため、この章の第1に示す幼稚園教育の基本を踏まえ、次に掲げる資質・能力を一体的に育むよう努めるものとする。
- 豊かな体験を通じて、感じたり、気付いたり、分ったり、できるようになったりする「知識及び技能の基礎」
- 気付いたことや、できるようになったことなどを使い、考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする。「思考力、判断力、表現力等の基礎」
- 心情、意欲、態度が育つ中で、よりよい生活を営もうとする「学びに向かう力、人間性等」
【幼児教育無償化に関する政府・与党の主な動向(H29.7まで)】
○自由民主党 選挙公約2005
保育園・幼稚園の幼児教育機能の充実を図るとともに、幼児教育の無償化を目指す。
○幼児教育の無償化について(中間報告)
「今後の幼児教育の振興方策に関する研究会」
○自由民主党 衆議院選挙公約(平成24年11月)
すべての子どもに質の高い幼児養育を保障するとともに、国公私立の幼稚園・保育所・認定こども園を通じ、すべての3歳から小学校就学までの幼児教育の無償化に取り組みます。
○自由民主党・公明党連立政権合意(平成24年12月25日)
○経済財政運営と改革の基本方針2017(平成29年6月9日)
幼児教育・保育の早期無償化
幼児教育について財源を確保しながら段階的無償化
○幼児教育の無償化について(平成29年7月31日 幼児教育無償化に関する関係閣僚・与党実務者連絡会議)
段階的に幼児教育無償化に向けた取組を進めることとし、その対象範囲や内容等については予算編成過程において検討
【新しい経済政策パッケージ(抜粋)】
第2章 人づくり革命
1、幼児教育の無償化
(具体的内容)
3歳から5歳までの全ての子供たちの幼稚園、保育所、認定こども園の費用を無償化する。
幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等については、専門家の声も反映する検討の場を設け、現場及び関係者の声に丁寧に耳を傾けつつ、保育の必要性及び公平性の観点から、来年夏までに結論を出す。
0歳~2歳児についても、当面、住民税非課税世帯を対象として無償化を進める
【幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会 報告書の詳細(実施時期)】
消費税率引上げの時期との関係で増収額に合わせて、認可、認可外を問わず、3歳から5歳までの全ての子供及び0歳から2歳までの住民税非課税世帯の子供について、2019年10月から全面的に無償化措置を検討すべきである。
- 幼稚園の保育料は無料になるの?
- 国は幼稚園の保育料等納付金を308000円(年額)と見積もってきました。この額は、ずいぶん前に全国の平均であるとされたもので、現状とかけ離れていると指摘されています。特に東京都の私立幼稚園の平均納付年額は、約41万円で国の見積額と10万円の開きがあります。(都内学校法人立園の学生生徒納付金年額)
区市町村が保育料の徴収をやめることで無料にできる認可保育所と違って、残念ながら、多くの私立幼稚園では、いただかなければならない差額が残ってしまいます。
【東京都私立幼稚園連合会、東京都私立幼稚園PTA連合会から東京都知事に対しての要望】
私立幼稚園等補助金予算について(31年度の予算要望)
保護者負担軽減事業費補助
(抜粋)
都内私立幼稚園に通う保護者の幼児教育費も無償となりますよう、本補助制度の見直しをお願い申し上げます。
【感想】
近年では、生涯学習やリカレント教育といった考え方が徐々に広まってきている。研修会では、幼児教育はすべてのリカレントの根源であることに触れていた。研修会で示されたエビデンスからも幼児教育の重要性を再認識した。幼児教育の投資の効果を考えると、幼稚園も、保育所も平等に無償化となるのが望ましい。しかし、財源の確保等の問題が蓄積しているのが現状である。PTA連合会は都や政党に対して無償化に向けて働きかけを行っている。幼児教育が無償化となるためには、PTA連合会や幼児教育に関係する専門家、保護者たち等、多くの人たちの協力・連携が必要であると感じた。